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書籍案内(陽明学のすすめY  人間学講座「三島中洲・二松學舍創立者」)
<書評>
上毛新聞 平成27年12月23日(水)掲載
深澤賢治著『陽明学のすすめY 人間学講座「三島中洲・二松學舍創立者」
群馬社会福祉大学教授・文学博士 中里麦外


 本書は、陽明学のすすめシリーズの第6弾である。これまでに対象とされた人物は、王陽明、安岡正篤、山田方谷、河井継之助、渋澤栄一らであるが、今回は三島中洲が取り上げられている。
 著者は、株式会社シムックスの創業者として同社を育て上げ、警備業界に大きな貢献を果たしてきた。いわば立志伝中の人である。しかし、それだけではない。2007年には、中斎塾フォーラムを設立し、知足主義に立った人間学の普及活動に取り組むというすぐれてカリスマ的なリーダーの一人でもある。
 陽明学のすすめシリーズは、手法上から見ると、二つの際立った特徴が認められる。一つは、活学の志に貫かれた揺るぎのない主張が展開されていると同時に、自由かつ寛闊(かんかつ)な誌的操志が併せて示されていること。もう一つは、可能な限り史料そのものをして語らしめるという客観主義的手法を重視していること。本書もまた、その例外ではない。
 本書は、三島中洲の人物像、学問、考え方、後世に残したもの、余話の5章で構成されている。さらに巻末には、関係文献の一部や三島中洲略年譜、参考文献等が付されていて大変ありがたい。いずれの章においても、石川忠久編『三島中洲詩全釈』の漢詩を自在に駆使して、それぞれのテーマをいきいきと浮き彫りにするその手際のよさは実に見事というほかはない。
 本書は、極めて読みやすく読み応えがある啓蒙(けいもう)書である。わけても「考え方」(国家観、人生観、死生観、漢字論―漢字存廃議論―、金銭観、女性観)の章は圧巻である。思想家、教育者、詩人、官僚、実業家など、多様な顔を持った三島中洲(1830〜1919年)の人と作品の全体像を示す本書が、21世紀という困難な時代を生きる読み手の知性を刺激するところは大きい。


『陽明学のすすめY 人間学講座「三島中洲・二松學舍創立者」序文
学校法人二松學舍 理事長 水戸 英則


 本学の卒業生であり、論語・陽明学を現代に活かすことを目的として設立された中斎塾を主宰する深澤賢治氏が、「陽明学シリーズ」第Y弾として「人間学講座 三島中洲・二松學舍創立者」を上梓されることになった。「陽明学シリーズ」は全十巻という壮大な構想のもと、第X弾として発刊された「渋澤栄一」(二松學舍舎長を務める)に続くもので、本学創立者三島中洲先生の生涯を知る上で貴重な書籍と云えよう。
 本書は、全体が五部の構成になっており、中洲先生の人物像、学問、考え方、後世に残したもの(二松学舎、渋澤栄一との関係等)、余話で成っており、これに三島中洲先生略年譜が附されている。
 これまで多くの中洲先生に関する著書が出版されているが、学術書が多く、難解な書籍が多い中、このシリーズは中洲先師の人物像がその時代を追って、簡易で非常に親しみある形で描写されており、ついつい読みふけってしまう著作である。また、随所にその折々の心情を歌った漢詩が掲載され、解説もされている。
 「学問編」では、陽明学と義理合一論、道徳経済合一説、知行合一、誠 等を紐解き、「考え方編」では国家観、人生観、死生観、漢字論、金銭観、女性観など興味深い記述がされている。第四編の「後世に残したもの」では、二松学舎について記述されており、「余話」では、中洲先生に学んだ女性について触れ、病気、銅像等についても記述されている。
 このように、著者の深い見識と豊かな経験に裏打ちされた本書は、中洲先生の人となりについて、その実務家ぶりの側面も併せ、解りやすく記述されており、本学関係者は勿論のこと、広く漢学関係者にもぜひ一読を薦めたい好著である。